2021.6.17 更新

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中京大学 工学部 機械システム工学科
博士(工学) 井口 弘和 教授

1976年東京理科大学卒業。1979年 (株) 豊田中央研究所に入社し、感性工学による快適性、安全性を追究した自動車の開発に従事。1996年名古屋工業大学大学院博士号取得の後、2003年日本人間工学会認定人間工学専門家資格取得。2004年から中京大学教授(感性工学研究室)。2013年~2016年工学部学部長。

後編のお話

  1. 気持ちよさの種類と自転車の可能性
  2. ① 人との共感によって強まる「感動」
  3. ② 自分の状況や性格に応じた「気持ちよさ」を選ぶ
  4. ③ 「気持ちよさ」がもたらす効果
Cyclingood
爽快感・高揚感・解放感・達成感に続く、
5つめの「気持ちよさ」は何でしょう。
最後は、「感動」です。これまでお話した爽快感や達成感など、全てを含む気持ちよさとも言えます。雄大な景色を見たとき、心に響く映画や音楽にふれたときなど、感動をもたらす要因はさまざまですが、「期待や想像に対して、結果が上回ったとき」に人は感動すると考えられています。
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ということは、「期待や想像」をしている方が
感動しやすいということですか?
登山を例に上げると、「山頂で御来光を見る」という目的があれば、その場面を想像しますよね。登っている間に期待が高まり、実際に山頂で見た御来光が期待や想像を超えたときには、大きな感動を得られるでしょう。目的がないと期待値を設定できないので、「期待や想像」につながる目的があると感動を得やすいと言えます。
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絶景を見たときに強い感動を覚えるのは、
「期待や想像」を大きく超えているからなのですね。
そうですね。そして、この感動をより強くするのが「誰かと共感する」ことです。家族や友人と感動を分かち合うことはもちろん、一人で映画を観るときでも、登場人物に共感することで「人とのつながり」を感じられ、感動を強めることができます。私はいつも同じ映画で泣いてしまうのですが、これはいつも同じ登場人物に強く共感しているからです。
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分かるような気がします。では、SNSなどその場にいない人とでも、
共感によって感動を強めることはできますか?
それは面白いですね。人と集うのが難しい場合でも、「誰かの感動を追体験する」ことはできるかもしれません。SNSで誰かがおすすめしていた場所に、その人の感動を想像しながら行ってみることも共感になりそうですね。想像によって期待値を自ら高め、それを上回ったときの感動はさらに大きくなります。
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ではその経験を自分もシェアすると…。
後日「こんな場所に行ったよ」「こんな景色を見たよ」と誰かに感動をシェアすれば、人との結びつきが感じられ、より感動を深めることができます。これは「ニューノーマル」な感動の強め方かもしれませんね。
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爽快感・高揚感・解放感・達成感・感動。
どれも日常に取り入れられそうです。
そして、5つ全てを自転車でつくれるのは興味深いですね。
ポイントは、自分の性格や状況に合わせて、感じたい「気持ちよさ」を選ぶことです。自分の性格とかけ離れた行動をするのはまた違ったストレスになりますから、普段インドアな方は「友人がおすすめしていたから」と無理して登山に行くよりも、まずは本や映画に思い切り没頭する方が「気持ちいい」と感じやすいでしょう。
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外でスッキリしたいときは、軽いペダリングで「爽快ルート」を
サイクリングすればいいのですね。
その通り。また、最初に「気持ちよさ」は継続時間が比較的短い感情だとお伝えしましたが、実はその効果は「気持ちよさ」を感じた瞬間だけにとどまりません。例えば、悲しいときに悲しいことばかり目についてしまった経験はありませんか?心理学ではこれを「気分一致効果」と言います。「人は自分の感情と一致する情報や事柄に目を向けやすくなる」という効果です。
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では「気持ちいい」という前向きな感情のときは、
ポジティブなものから影響を受けやすくなるのですか?
はい。同じニュース番組を見ていても、ストレスが解消されてスッキリしているときには明るいニュースを記憶しやすく、反対に不安を感じているときには不安なニュースばかり記憶しやすくなります。これと似た効果で、楽しい気分で記憶したことは楽しいときに思い出しやすく、悲しい気分のときには思い出しにくい「気分状態依存効果」もあります。
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これも感情に記憶が引っ張られるということでしょうか。
そうですね。いずれも、ネガティブ感情はネガティブな情報を掘り起こしてしまうというもので、これは個人の性格ではなく「脳の特性」と言えます。「気持ちいい」時間をつくることは、この特性による不安やネガティブのループから心を解放し、ポジティブな気持ちを持続させることにつながります。
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「気持ちいい」とはその瞬間の喜びだけでなく、
ストレスを解消し、ポジティブな気持ちを
持続してくれるのだそう。
知らず知らずにストレスが溜まりやすいコロナ禍において、
「気持ちよさ」を意識的につくる大切さがわかりました。
井口先生、どうもありがとうございました。
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